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大都市という発明の終焉

5月、7月と東京の転出超過が見られたという発表がありました。

総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、7月の東京都への転入者は2万8735人となり前年同月から4203人減った。転出者は前年同月より482人少ない3万1257人だった。転入者の減少が大きく、5月に続き7月も転出超過となった。(日本経済新聞 2020/8/28) 

2017年のメルマガにて、『人の持つ相互接続という特性が 循環からダイナミクスを生みだす』と題して大都市の過密性が人の持つ相互接続を生み出し、種としての成長を支えていること、様々な経済的効率性を生み出すとともに人の知性の進化に大きく寄与しているというお話をご紹介させて頂きました。

 

今回のコロナウィルス感染症は、この過密性がマイナスに働きました。居住やオフィスの都市からの離脱は、人の知性の進化を止める事になるのでしょうか。

 

建築家 隈研吾氏は、『見えてきた7つのメガトレンド アフターコロナ』(日経BPムック2020年)のインタビューで今回の事を「新たな自由に対するプロセス」であると言っています。20世紀の都市は、オフィスや工場といった大きな箱を作りそこに人を集めて効率よく働かせる「大箱都市」と言える。オフィスの歴史は浅く100年しかない、元々は大きな家に執務室を作りそこで働かせたのが始まりである。ここからだんだんと「都市=オフィス」となっていった。これからはこうでなくてはならないと決めつけていたオフィス、家、公共交通機関、公共空間など20世紀スタイルからの脱却の機会ととらえるべきだと言っています。

ある調査では緊急事態宣言解除後も従業員の在宅ワークの実施率は3割弱であるという報告があります。コロナが収束しても、在宅ワークの推進、職住融合の流れは、変わらないと考えられています。既に郊外の1戸建ての売れ行きは好調だと言います。4LDKや5LDKの家で、仕事部屋を確保したいというニーズが高まっています。在宅での仕事は子供や家事の発生で集中した時間が保てない、クライアントとのミーティングをダイニングテーブルからは行いにくいので執務室のある広い家を郊外へ、もしくは地方に求める流れは、これからも増えていくでしょう。

 

今まで都内では広い家に住む事は叶わないが、郊外なら広い家に住める。また、郊外の1戸建てなら小さな庭もついており、気分転換に庭に椅子とテーブルを置いて、仕事をする事も可能となり仕事環境の質を上げる事になるかもしれません。

また在宅で仕事をする事により、夕飯を家族と一緒に過ごすことが、多くなり、塾の送り迎えをする事も出来るかもしれない。それにより女性の家事負担が減り女性の社会進出を促進するかもしれない。

 

また、子育てに関わる時間の多くなることで、子供を通じた父親同士の交流が増えるかもしれない。父親の地域での孤立を防ぐことは、人生100年時代における男性の孤立問題を解決する可能性があり、ソーシャルヘルスを高めるかもしれません。

一方で大都市の変革の可能性についてはどうでしょうか。若手の建築家能作文徳氏は現代思想への寄稿「都市に再接続するための気晴らしの居場所」の中で、

 

住宅地の街区の内側に車が入ってこられない、子供が気兼ねなく遊べる袋小路があるべきだ。車が入らなければアスファルトで舗装する必要がないため地表面を土に戻すことが出来る。路地の入口まで自動車や配達のトラックが寄り付く事が出来れば、そこに路地毎にカーシェアのガレージと配達ポストがあればよく、路地の内側へのアクセス部分は車いすが通るために少しだけ舗装されていれば十分である。
(現代思想8 2020vol.48-10 青土社)

と言います。

 

人の相互接続が、デジタル技術によって過密にならなくても可能となれば過密による弊害である、病気や、犯罪、享楽、不道徳、よりよい機会をめぐる激しい競争や、他人との接触の多さからくるストレスからの解放も出来る事になります。

いずれにしろ人々の毎日の小さな生活の営みの集合体が大都市であっただけですが、どこか都市をインフラとして捉えてしまっていたところがあるのかもしれません。

 

ビジネスモデルイノベーション協会では、毎年ビジネスモデルオリンピアというイベントを行っています。イノベーションのフロントランナーをお呼びし、熱狂する講演をお届けしています。

講演の様子はこちらからご覧いただけます。

2021年は、この都市や建築からヒントを得て作られたパターンランゲージという『イノベーションをつくる言葉』をテーマに準備を進めています。ぜひお楽しみに。

 

 

文責 BMIA 理事 國井 誠

 

BMIA note(2020/10/18記事より)

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