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長期雇用を前提とした無敵の会社の事例(その1)

人生100年時代と言われ、そして、このコロナ禍。経済への打撃はまだ明確なデーターは出ていませんが、私達市民の社会保障問題、年金問題はより拡大するでしょう。

そこで、雇用力のある大企業は75歳定年への制度整備を進めています。

具体的には、年功序列の給与制度を段階的に改正(改悪)、60歳以上のシニア層への給与資源の確保を進めるということです。例えば、35歳あたりで年齢給相当の上限を設け、管理職に昇格できれば、新たな給与の上昇カーブが手に入る。しかし、その後、課長職から部長職に昇格したからと一気に月給が何万円も上がるわけではなく、緩やかな伸びしろを手にれることが出来る。毎年の業績への貢献により、僅かな昇給が得られる。その可能性を手に入れられるのは10%未満という極限られた社員に過ぎない。これが現実です。

そして、給与が上がらない状況において、大企業は「ジョブ型雇用」に切り替え始めました。
これは、「ジョブ」により給与が固定されるということです。

すなわち、給料が上がらない時代になったということです。
そして、長期雇用になったとはいえ、シニア層にとっては新たな課題が目の前に現れます。

今まで培ったスキルセットの賞味期限切れ
ジェネレーションギャップによる孤立

それまで、人柄や人徳ではなく組織長職、担当部長、担当課長という肩書きによるポジションパワーで社内で生息していたような人は、次第に人が離れていき存在意味不明のおっさん、おばさんになっています。

企業側は、シニア人材の個人の問題として処理しています。

組織長は自分より年上、かつての上司や先輩を部下として任されることになります。
そんなときに、シニア人材に不遜な態度をとられたどうでしょう?

さて・・・これで本当に全体最適を目指せるのでしょうか?
制度面だけではどうにもならない問題が組織の中に置かれます。

この問題に明確な答えを示している人はいません。

解決策の一例として、私が現在、全体最適、組織として健全な状態を追求している手法をご紹介しましょう。

私自身は、2019年よりアレックス・オスターワルダーが示したマルチレイヤーイノベーションすなわち、オペレーション、マーケティング・セールス、R&D、ビジネスモデル、組織とマネージメントの5つの異なるレイヤのイノベーションを同時に全社レベルで実践しています。

現在、私達の周りにはDXというキーワードが飛び交っていますが、システム導入、オンプレからクラウドへのシステムの移行程度の範囲に留まっています。本来のDXの定義はICT技術により、マルチレイヤーイノベーションを成功させることでしょう。
しかしながら、5つの領域全てに精通するような人材はなかなかいない。だから具体的な方法も工程も分からない。これが現実でしょう。

BMIAの会員や認定コンサルタントならばその可能性があります。ビジネスモデル・キャンバス、バリュー・プロポジションキャンバスを使いこなし、そしてIT、社内政治に長けていればいけます。

しかし、そこに「シニア世代」という因子が入ってきます。

私自身は、たとえ二桁億円のグローバル事業であろうが、NTTグループでも類を見ない全社レベルの改革だろうが緻密な企画書、計画書、組織体制など書かずアジャイルでやれてしまいます。

社内政治にもいつしか長けてしまうようになりました。私は考えるのと同時に身体が動いて改革を成功させてきました。現在、国立大学やデザイン専門学校の講師ではあっても、経営学者ではありません。

あくまで現場の活動する人間です。こうして高度でかつ複雑な改革を言葉に落としてモデル化し、また誰かがやろうとするためのコンテンツに落とし込むのに難儀することがあります。

そんなとき、いいものが手に入りました。「The Invicible Company」この本の力を借りながら少しでも体系化をしていきますね。

リーダーの行動
・私自身、常々全社各事業本部のビジネスモデルの分析をして本質的な問題の真因分析をしています。
・戦略的ガイダンス:私の構想のすべてを全社に共有は、わざとしていません。オペレーションとマーケティング・セールスのイノベーションの領域の説明のみに留めています。理由は、やはり、組織やマネージメントの領域にまで宣言をすると、猛烈な反発を食らうからです。
・リソースの割当:元々私が統括する部門はコーポレート部門であり社長の期待は「改革=イノベーション」なので、資金、部下の稼働は100%このイノベーションに投資できる状態です。
・イノベーション・コアチームとスキルへのアクセス:
 ここが重要です。シニア層の恐怖は仕事を奪われること。排斥されること。不要な人材にされてしまうことです。この恐怖に対する敵意は個人というより集団で襲いかかってきます。ここからがリーダの知恵と胆力が問われる場面です。徒党を組まれて1対多の改革推進のリーダ(私、執行役員) 対 シニア層執行役員、前執行役員その参謀という対立構造にってしまいました。

始めにやったことは、ツートップを叩きのめすことです。フロアの真ん中で怒鳴り合いです。これを1時間ずつ連続で対戦しました。社内でも有名な抜群の頭脳を持つ猛者です。これは、敵対する徒党に対する意思表示であり、周囲の関係者に対するインパクトです。

普段のわたしは、ニコニコ、世代や性別、組織関係なく友好的で分かりやすい言葉を使う、ムードメーカでもあるコーポレート部門の部門長です。
しかしながら、一度対立が始まると激怒、怒号、人が変わったように攻撃的な言動にシフトします。この豹変のインパクトは大きい。なので、年に二回くらいにしています。

このとき、私の頭の中にはシニア人材のバリュー・プロポジション・キャンバスが描かれていました。彼らのPain は、尊重もなく、ただ排斥されることです。組織にとって無意味な無価値な存在にされてしまうことです。
Gainは何でしょうか?安定、役割、いやいや、それ以上に、新しいスキルを身に着け、明確な役割を持ち、頼られ自分の描いていた以上の理想的でかっこいいイノベーションの先導者になれるとしたらどうでしょうか?

私がやったことは、イノベーション波に隅っこに押しやられると恐怖しているシニア人材に向けてのGain Creationです。

具体的には、
Saleforceの資格取得や講習会への参加の依頼により新しい最先端のスキルを身に着けてもらうこと。
そして、そのスキルを軸にイノベーションのための新しい役割を担ってもらうこと。
この2つです。

今、彼らは生き生きとしています。
誰から見ても、私と阿吽の呼吸で動く、同志の様に見えます。

シニア人材との共生は、長期雇用に向かう大企業の大きな扱いの難しい、正面からは扱われないであろう課題です。

この課題に向き合う事ができるのは、世代を超えた対話と共感ができるリーダです。対話しながら、頭の中にその人達のバリュー・プロポジション・キャンバスが描ける人、それを実現していける人です。

この続きはまた次の機会にお話します。

理事 三宅泰世

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